1. Index
  2. Main
  3. 花の名前

十一章 Solidago

『待て、ナナハ。……その手に持っているドリルは、なんなんだ?』
『あぁこれ? アデル言ってたじゃん。最近身体の動きがおかしいって』
『言ったさ。言ったが……それと、どう関係するんだ!? いつの間にか拘束されてるしっ!』
『じゃあ、いってみよう! ダイジョーブ、麻酔は効いてる……はず』
『おい、“はず”ってどういうことだ!?』

「……ニンフェア。ナナハさんって医師の資格持ってるの?」
「サぁ?」
 太陽がさんさんと輝くある日の午前中。
 私たちはいつものようにナナハさんの家をお邪魔しています。
 理由は、アデル様の調子があんまりよくないからなんだけど……。

『頼むナナハ、睡眠薬をくれ。起きたままは辛すぎる!』
『ざんねん、ウチ置いてないの。というわけで、いっきまーす!』

 アデル様……大丈夫でしょうか!?
 果てしなく不安です。
 戻ってきたらティーテレスになっていそうです……。
 いえ、それどころか人型兵器にまで改造されてしまいそうです!
「まったく。表まで聞こえるぐらい大きな声で何を叫んでいるんだか」
 あれ? この声って――
「イラソルサん、いらシたんデスか?」
 後ろにいたイラソルさんに、ニンフェアも驚いている。
「今しがた来たところです。兄さんは……しばらくかかりそうですね」
 ちらり、と隣の部屋の扉を見て、諦めたように息をついたイラソルさん。
 ……ついさっき、アデル様の声にならない悲鳴が聞こえてきたんですけど。
「まぁ、さすがに死にはしないでしょう」
「大丈夫なんですか!?」
 正直言って、まったく信じられません。
 だって、この前の健康診断のときもニンフェアが止めなかったら……なに、されてたんだろう。
「……あの人を殺したら――いえ、何でもありません」
「ふえ?」
 うぅ、また誤魔化された……。





「イラソルいたのか……」
 数十分後、見るからに疲れ果てたアデル様が出てきました。
 目に生気がありません!
「生きてますか、兄さん」
「かろうじて。ドリルなんて……文明は進化したんだな」
 ど、ドリル……。
 ドリルって、人体に使う必要ありましたっけ? ただの検診程度なのに。
「で、どうし――」
「イー君!! 会いたかったよー!!」
 あ、ナナハさんの暴走が始まった。
 二度目にもなると、多少は慣れたみたいで動じずにいられる。
 けど……イラソルさん、表情かわってないよ?
「久方ぶりです。今日は兄さんに用事があってきましたよ」
「俺に?」
 そう言ってイラソルさんはポケットから手紙みたいなのを取り出した。
 わっ、とっても豪華な……招待状?
 封のデザインが国旗になってるから、王室関係なのかな?
「げっ……」
 アデル様、すっごく嫌そうな顔。
 え、なんででしょう?
「ラノンケル様が、即位式を行うということなので。……言っておきますけど、強制参加です」
「ムリ。絶対行かないぞ! 城なんかに行ってたまるか!」
 ……??
「ですから、強制です。兄さんに拒否権などないです」
「おい、あの噂を聞いて俺が行くとでも思ってるのか?」
 すみません、説明がほしいです……。
「あー、プリムラこっちこっち」
 訳が分からないので、ナナハさんに連れられて隣の部屋へ行くことにしました。


「えー、アデルは一応……王家と関わりがあってね」
「王族なんですか!?」
 真っ青になって、叫んじゃった。
 だ、だって王族の方なら私なんか使える価値なんてないし!
「いやいや! うーんと、王家はアデルに恩があるんだよ」
 な、なら――って、そっちのほうがすごくありません?
「それで、王家のお祝いなんかはほぼ強制参加なワケ。でも、今回はなぁ……」

『ぜったい行かない!』
『行かなければ、もっとめんどくさいですよ?』
『ぐっ……。でも、嫌だ』

「何かあるんですか?」
 ナナハさんまで乗り気じゃないと、よっぽどの何かがあるみたいなんだけど。
「……あんまりよくない噂が、そのラノンケル王子にあってね」
 そういえば、王家の方々とは関わりがないから意識したことなかったけど、いまこの国には王様がいない。
 確か私が作られる少し前ぐらいに亡くなって、王子様はまだ成人前だからって即位できなかったらしいです。
 その王子様が、ラノンケル様。
 そんな方の噂?
「どんなものなんですか?」
「……45世代以上のティーテレスを、無差別に集めてるとかなんと」
 45世代以上……って、私もですか!?
「あ、だいじょーぶ! あたしが守ってあげるから!」
 は、はぁ……。

『行くからさ、せめてアレは置いて行っていいか?』
『身分証明を置いて行ってどうするんですか』
『それが一番嫌なんだよ!!』

「長いデスね……」
「本当に」
 よっぽど行きたくないんだなぁ。
 それにしても……身分証明?
 アデル様のなぞは、深まっていく一方です。
 ……いつ、教えてもらえるのでしょうか?

page top