灯台

 拝啓 愛しいあなたへ


 あなたが海にでて、もう一ヶ月が過ぎようとしています。
 元気でお過ごしでしょうか?
 私は元気です。
 今日からあなたに手紙を出すことにしました。
 海の上で読むのは大変かしら?
 もしそうなら遠慮なく言ってください。
 最近、ようやく灯台守の仕事を全部覚えました。
 遅すぎるかしら?
 でも、これでやっと夜の海を照らすことができます。
 だから……早く帰ってきてくださいね。







 だんだんと暑くなってきましたね。
 お元気でお過ごしでしょうか?
 私は暑さに負けそうになりながらも、灯台を灯すのは忘れません。
 じゃなきゃ、あなたが帰ってくるのが大変だもの。
 少し前に、漁師さんたちからたくさんの魚を頂きました。
 日頃のお礼ですって。
 とても美味しかったけど、あなたが捕ってきた魚が一番です。
 是非、帰ってくるときにはたくさんの美味しい魚をお願いしますね。







 今日はあなたの誕生日ですね。
 用意したプレゼントが渡せなくてとても残念ですが、お仕事頑張ってくださいね。
 今年は苦手な手作りケーキに挑戦してみました。
 ちょっと黒くなってしまいましたが、味は悪くなかったですよ?
 次はちゃんとあなたに食べてもらいたいです。







 外では雪が舞うようになりました。
 お身体は大丈夫でしょうか? 心配です。
 無理なさらず、いつでも戻ってきてくださいね。
 私の方は大丈夫です。
 つい先日、階段を登っている途中に足を滑らせてしまいましたが、怪我ひとつなく元気です。

 あら、そろそろ夜明けみたいです。
 あなたもこの広い海のどこかで、この朝日を見ているのかしら……。







 少し、間が開いてしまいました。
 お元気でお過ごしでしょうか?
 私は……ごめんなさい、元気とは言えなくなってしまいました。
 少し前から、国中である病が流行っています。
 いつも元気に灯台に行っているから平気、と思っていたのだけれど……。
 お医者様に、灯台守の仕事をやめなさいって言われてしまいました。
 でも、私はやめるつもりはありません。
 もしやめるとしたら、それはあなたが無事に帰ってきてくれた時です。
 私を止めたいなら、帰ってきてください。
 じゃなきゃ、幽霊になってでもあなたを待ち続けますよ?







 どうやら、手紙を書くのもこれが最後のようです。
 もう灯台守の仕事もできません。それが……とても哀しい。
 覚えていますか?
 私が初めて灯台守の仕事をさせられた日を。
 当時の私にとって、灯台の仕事なんて嫌で仕方がなかった。
 だから、反抗して灯台に明かりを灯すのをサボってしまったの。
 次の日、人生で一番後悔しました。
 まさかあなたが漁に出たきり、戻ってこないなんて。
 私には信じられなかった。
 だからこそ、あの日以来灯台に明かりを灯し続けました。
 あなたがいつ帰ってきてもいいように。
 けれど、それは叶わぬ夢だったみたい。
 ごめんなさい。
 あなたと初めて会ったのもあの灯台だったのに。

 目が、霞んできました。
 もし、もしも私が天国へいけたら……あなたに会っても、いいですか――?



使用お題 「042:灯台」