氷の少女

 これは、遠い遠い昔の話。


 荒れ果てた地の果てに、氷でできた館が存在した。
 その館は神によって呪われていた。
 呪いは封印でもあった。
 何のためなのか、だれも知る由もない。
 その館の一室には少女が閉じ込められていた。
 館と同じく、その体は氷となっていた。
 少女はたった一人、幾千年もの孤独とともにあった。
 偶然、館に辿り着いた旅の少年は少女を見て驚いた。
 同時にとても悲しく思った。
 いつの間にか瞳から、雫が溢れていた。
 故に少年は、館の周りに火を放った。
 次第に館の氷がとけていく。
 これで少女は解放される、そう少年は思った。

 自分を見つけてくれてうれしい、と少女は思った。
 しかし、氷の姿では話せない。
 こんな自分を助けてくれることを、少女は喜んだ。
 しかし、氷の姿ではわからない。
 再び悲しみに暮れる少女を、暖かなぬくもりが包み込んだ。
 少しずつ、ほんとうに少しずつ、氷がとけていく。
 このぬくもりは少年の暖かさだと、少女は思った。
 しかし、少女は思い出した。
 自分の体は氷になってしまったことを。
 どんどんとけていく体を少女は見つめていることしかできなかった。
 そして、終には水となった少女は空へと舞い上がり、天へと還った。

 天へと還った少女は雨となり、大地へと降り注いだ。
 冷たく、それでいてとても暖かな雨だった。
 少年の恵みの雨になれたことが嬉しくて、少女は初めて笑っていた。
 けれど、その笑顔を少年は見ることができない。
 少年は少女を救うことができなかったことを悔い、嘆いた。
 悲しまないで、と少女は思った。
 しかし、雨の姿では話せない。
 私のために泣いてくれてありがとう、と少女は喜んだ。
 しかし、雨の姿ではわからない。

 少年は、失った少女の心を探すため旅に出た。
 たった一人で。
 少女は再び空へと還り、また少年の下へと降り注ぐ。
 少年が流した涙のように、今度は自分が少年を救うために。



 遠い遠い昔の話。


 荒れ果てた地を旅する少年がいた。
 少年の行く先々では恵みの雨が降り注ぎ、人々からたいへん感謝されていた。
 けれど、少年が探していたものを見つけることができたのか。
 だれも知らない。