06.要注意人物

「要注意人物、ですか?」
「ええそうよ! ぜぇったいに近づいたらダメなんだから!」

 おやおや珍しく、陛下が真面目に執務に取り組んでおられると思ったら……。
 イオリ殿に内緒話ですか?
 いま宰相閣下が謹慎中ですので、ただでさえ多い執務が普段の三倍近くあるというのに。

「なんのお話ですか? 陛下、書類が山ほど溜まっておりますよ」
「わかってるわ……。でも、言っておかなきゃダメなの!」

 はてさて、なんのことやら。
 あら? 廊下が少々騒がしいような。

「いい、ぜぇったいに――」


「ひっさしぶりねぇええ!! 元気にしてた? エリー!」


 どなたかと思えば、陛下の叔母にあたるソニア様ではありませんか。
 王族に連なるお方なのに大の旅行好きで、国にいるのは一年の五分の一ほどです。
 お帰りになるなら知らせて下さいと何度も……。

「く、くるしぃわ! どいておばさま……」
「ああごめんなさい! エリーがあんまりにも可愛いものだから、つい」

 テンションが異常に高いのも変わりませんね。
 …………ん? 
 もしや陛下がおっしゃっていた『要注意人物』って――

「せっかくだから、腕によりをかけてご馳走でも振舞いましょう!」
「――っ!!?」

「イオリ殿、至急コックに伝えてください。ソニア様を厨房へ入れないよう」
「は、はい。分かりました」

 これは、なんとしても止めなければ!