「要注意人物、ですか?」
「ええそうよ! ぜぇったいに近づいたらダメなんだから!」
おやおや珍しく、陛下が真面目に執務に取り組んでおられると思ったら……。
イオリ殿に内緒話ですか?
いま宰相閣下が謹慎中ですので、ただでさえ多い執務が普段の三倍近くあるというのに。
「なんのお話ですか? 陛下、書類が山ほど溜まっておりますよ」
「わかってるわ……。でも、言っておかなきゃダメなの!」
はてさて、なんのことやら。
あら? 廊下が少々騒がしいような。
「いい、ぜぇったいに――」
「ひっさしぶりねぇええ!! 元気にしてた? エリー!」
どなたかと思えば、陛下の叔母にあたるソニア様ではありませんか。
王族に連なるお方なのに大の旅行好きで、国にいるのは一年の五分の一ほどです。
お帰りになるなら知らせて下さいと何度も……。
「く、くるしぃわ! どいておばさま……」
「ああごめんなさい! エリーがあんまりにも可愛いものだから、つい」
テンションが異常に高いのも変わりませんね。
…………ん?
もしや陛下がおっしゃっていた『要注意人物』って――
「せっかくだから、腕によりをかけてご馳走でも振舞いましょう!」
「――っ!!?」
「イオリ殿、至急コックに伝えてください。ソニア様を厨房へ入れないよう」
「は、はい。分かりました」
これは、なんとしても止めなければ!