05.無かった事にしよう

「陛下、本日の予定の『お見合い』というのは……誠なことなのですか?」
「言わないでよ! うわーんっリシュリューのバカー!」

 最近何やら動いているとは思ってましたが、まさか強硬手段ですか。
 宰相閣下はどこまで本気なのでしょうか。

「まぁ、相手は隣のフェティダ国第三王子らしいですし、相手としては申し分ないのでは?」
「い・や・よ! “セイリャクケッコン”なんてじだいおくれよ!」

 フェティダ国と我が国オルドローズ王国は古くから非常に親しい関係にあります。
 エリザベート様の祖母にあたるカトリーヌ様も、フェティダ国から嫁がれてきたのです。
 そういう関係ですので、本来なら歓迎すべきことなのですが……。

「だいだいあの王子、ことしで30さいじゃない! 24さいもはなれてるわ!」

 ええ、まぁ政略結婚ですからこういうことも珍しくはありません。
 陛下の年齢がもう少しあれば、ですけど。
 流石に6歳と30歳は……世間的にもちょっとキツいのでは。

「こうなったらイジでもことわってくる! 行くわよ、アイリーン!」
「はい」

 もう展開が読めてきましたよ。
 止められるかしら?


 で、お見合い会場に選ばれたのは応接間。
 私と陛下が待つこと数分後、例の第三王子がいらっしゃったのですが……。

「(アイリーン、きめたわ。リシュリューはゲンポウよ)」
「(減俸程度なら問題ありません)」

 なぜ王子を案内しているのがイオリ殿なのでしょうか。
 いえ、まぁ陛下の作戦を阻止するためでしょうけど。

「ご機嫌麗しゅう、エリザベート陛下」
「ご機嫌よう」

 流石陛下、先ほど考えたことなど一切出ていないスマイルです。

「本日はお見合いということなのですが、先に申し上げます。今回の話は無かった事にしませんか?」
「へ?」

 おや、意外な展開。

「実は我国で謎の病が流行しているのです。そのため今は婚約などをしている余裕もないのです……」
「なんですってっ!? アイリーン!」
「承知いたしました」

 なんと、そんなことになっていたとは。
 急いで小隊の医療班に伝えに行きましょう。

「王子、わが国オルドローズ王国はフェティダ国を全力でシエンいたします。すぐにじゅんびしてうかがいますので、本日はここまででよろしいでしょうか?」




 数ヵ月後、フェティダ国から大量の謝礼品が届きました。
 その中でも特に陛下がお気に召されたのが、宝石で作られバラが彫られたペアリング。
 誰に差し上げるのでしょうね?