「へ、陛下ぁ! そのような顔をなさらないでください!!」
「だれのせいだとおもってるのよっ! このバカリシュリュー!」
エリザベート女王陛下が治めるオルドローズ王国。
その国一番の豪華さを誇る、オルドローズ城。
陛下と宰相閣下は、その城の大広間にある陛下の席で大喧嘩の真っ最中です。
といっても、お二人共は自身の役目をきちんとわかっていらっしゃいますから周りの方々には気づかれない程度にやっていらっしゃいます。
素晴らしきことですね。
「あー、イオリ! イオリがいないなんてこんな夜会つまんないだけじゃないの……」
「ですから陛下! そのような不貞腐れた顔はお隠しくださいと何度もっ。しかもあのような異国人の名を叫ぶなど!」
争っている内容は、素晴らしいとは言い難いですが。
全く、子供ですか。
……陛下は子供ですけど。
「いいですか陛下、この際はっきり申し上げます! 異国人を贔屓するのをおやめなさい! それがいずれ、陛下の人望を著しく下げることに――」
どちらかというと、宰相閣下の株の方が下がりそうですけどね。
なんたって陛下とイオリ殿はしょっちゅう城下町の方へ赴いていますから、国民たちからはほとんど歓迎されてますし。
……まぁ、それが陛下の狙いだったんですけど。
「うるさいわね。それいじょうのこと言ったらクビよ!」
「陛下ぁああ!!」
流石に宰相をクビにされたら困ります。
そろそろ止めに――おや?
「陛下、遅くなって申し訳ございません」
「イオリ!」
「ぬぉっ!?」
流れるように陛下の前で跪く、選任騎士《シュバリエ》イオリ殿。
それはまるでひとつの絵画のような光景でありました。
……あ、陛下が見とれてます。
「い、いいのよ! どうせリシュリューがムリナンダイをおしつけたんでしょ?」
「いえ、宰相閣下は伯爵方の警護につくよう命じられただけです」
その仕事は本来、騎士団中隊のものですよ。
この国の騎士団は小隊・中隊・大隊・近衛隊の4種類に分けられており、貴族の護衛などには中隊、大公爵になれば近衛隊が担当します。
よく見れば宰相閣下が青い顔をしてます。
こりませんね、ほんと。
「よし、イオリ! おどるわよ!」
「お任せを」
意気揚々とダンスホールへと向かうお二方。
仲睦まじいとはこのようなことを指すのでしょうね。
「あああぁぁ、陛下ぁあああ!!」
さて、このうるさい宰相閣下をどう抑えますかね?