女王陛下、エリザベート様はどちらへ行かれたのか?
朝からお姿がなく、侍女や近衛兵たち全員で城中を探し回っているというのに!
ええい、今日こそは執務を最後まで実行してもらいますぞ。
「アイリーン! 貴方という人が付いていながら、どういうことなのかこれは」
「恐れながら宰相閣下。その手にある書類のせいと思われます」
なんと、これのせいとな!?
まったく女王はいつまで子供のつもりでいらっしゃるのか。
こんなものなど、王族にとっては必要不可欠ではないか。
しかもエリザベート様は……あろうことかあの異国人をひいきしておる始末!
ここオルドローズ王国最大の危機が訪れてしまうかもしれんのだぞ。
「……そのうち見つかりますわ。宰相閣下は執務のほうをお願いしたいのですが」
本来なら女王がしなければならないのだが、仕方があるまい。
宰相リシュリューの名にかけて、オルドローズ王国繁栄のため!
「うむ。では、任せたぞ。……一刻も早く陛下を連れ戻し、あの忌々しいシュバリエをクビにしてやるっ!」
「陛下、宰相は執務室に行かれましたよ」
宰相が立ち去ってすぐ、私は近くにあった小部屋に声をかけた。
ここは物置部屋として使われていますが、最近はエリザベート様の『宰相回避部屋』として使われることが多いのです。
「やぁっと行ったわね! まったく、リシュリューはバカなんだから、仕事だけしてればいいのよ」
そう言い切る陛下に、心の中では賛成しておきます。
先程の若干小太りな男性は、この国の宰相にして女王補佐官カーディナル・ド・リシュリュー閣下。
政治的な能力はたいへん優秀な方なのですが……。
「わたし、“コンヤク”なんてぜーったいしないんだから!」
そう、彼が持っていた書類は――所謂、お見合い写真と呼ばれるものです。
陛下は御年6歳になられたばかりだというのに、あの方は
『女王たる者、それに見合った殿方を見つくろうべきだ!』
と、声を張り上げて主張しているのです。
これが間違ってるとは思わないのですが、もう少し年齢などを考慮するべきだと。
ちなみに、あの資料に載っている方は大半が20代後半でした。
「さぁて、今日の執務はリシュリューにまかせてと。イオリにジョウバを教えてもらうの!」
「わかりました。怪我などなさらないようにご注意くださいね」
「イオリにまもってもらうからダイジョーブ!」
宰相があんなことをしているのは、彼、イオリが気に入らないのが一番の原因なのですが。
ですが、私ども侍女たちや兵士の大半はふたりの仲を応援中です。
血統が重要だ、なんて考えてるのは今や宰相お独りなのです。
……一応、彼にもう少し年齢を考えるべきだと伝えに行きますか。
後日、お見合い写真を笑顔でビリビリに引き裂く女王陛下の姿が見られたのだとか。