ここ、オルドローズ王国の現女王陛下エリザベート・ガリカ・ロサムンディ・オルドローズ様は、御年6歳になられます。
幼いながらも、仕事を懸命にこなそうと毎日必死に執務に望んでおられます。
母親である前女王陛下が亡くなられてまだ数か月というのに、泣き言ひとつ出さずに頑張っています。
おおっと、自己紹介が遅れました。
私は陛下にお仕えする侍女長アイリーンと申します。
主な仕事は、陛下の身の回りに関する様々なことのお手伝い……でしょうか。
「アイリーン! まだかしら?」
ああ、エリザベート様! 主語が抜けていては会話が続きませんよ!
私は陛下の教育係も兼任していますので、そういったところは聞き逃せません。
「いいじゃない、そんなの。それよりもまだぁ?」
うう、負けませんよ私は!
それよりも陛下、まだ未決済の書類の山が3つもあるではありませんか。
お約束では『書類の山が1つになったら、自由時間』でしたよね?
「イヤよ。こんなのリシュリューにやらせればいいやつじゃない」
リシュリューというのは、この国の宰相であらせられます。
言いたくはないですが、幼い陛下の代わりに実質この国を支配している方です。
……ええ、一応。
本人の名誉のためにも、そういうことにしておきましょう。
「よっし、おわり! 行ってきまぁす!」
ああっ!? 陛下、お待ちください!
行先などわかっておりますが、せめて供をお付けくださいな!
……その供を、迎えに行かれたのでしたね。
はぁ、やはりリシュリュー様を説得しなければいけませんね……。
だいたい、あの方の考えは古いんです。
そんなのだから陛下に振り回されるんですよ。
「みぃつけた! イオリ!」
「へ、陛下? まだ執務のお時間では……」
陛下が向かわれたのは、近衛兵たちの待機部屋。
そこにいたひとりの青年が、いま陛下の大のお気に入りなのです。
名をイオリ・シズカ。
東にある異国出身の彼は、つい最近、女王陛下選任騎士《シュバリエ》に任命されました。
……任命させられた、のほうが正しいのですが。
まぁ、彼も嫌がってはいませんので、いいのでしょう。
「そんなことはいいの。それよりもイオリ、バラ園で散歩するわ。付き合いなさい!」
「はぁ、了解しました」
ぐいぐい、と彼の手を引っ張る陛下の頬がわずかに赤く染まっているのが見えました。
こうなっては今日の執務は無理でしょう。
さぁ、あのめんどくさい――いえ、有能な宰相閣下を呼んでまいりますか。
オルドローズ王国現女王エリザベート・ガリカ・ロサムンディ・オルドローズ陛下。
好きなものはバラと甘いもの。
嫌いなものは雨とたくさんの書類と口うるさいリシュシュー、あといろいろ。
将来の夢は……イオリのお嫁さん。