「おにいちゃん、みぃつけたっ!!」
「うわあああっ!!?」
突然耳元で叫ぶように言われて、飛び上がった。
勢いよく飛び上がったために船体が大きく揺れ、そのまま横転した。
バシャン、と派手な音を立てて、湖の中で尻餅を付いた。だいぶ浅いのだろう、すぐ顔が出せる程度で助かった。
「ああー! おにいちゃんのせいでみずびたしじゃん!」
「それはこっちのセリフだよ!! 耳元で大声出すなって!」
「なによー! かくれんぼしてるのにねてるおにいちゃんがわるいんだから!!」
そう言って、妹は走り去ってしまった。
「あーあ。母さんになんて言われるか……」
濡れて気持ち悪い服を引きずるようにして、とりあえず湖から這い出た。いくら暖かな気候だからといって、このままでは確実に風邪をひくだろう。
立ち上がって、ふと、桟橋の先を見た。
「あ……!」
読み返しすぎてヨレヨレになった本が、間一髪、濡れずに済んだようで、寂しそうに置かれていた。
「危ない危ない。――あれ?」
濡れた手で触るのには少し躊躇われたが、あることに気がついてそのまま拾い上げた。
折り目がついてしまったページに、入れたはずのない栞が挟まっていた。何かをラミネートしたもののようだ。
「なんだろ……」
なるべくページを濡らさないよう、慎重にめくっていき、目的のページを開いた。
そこには、豪華な剣とリンゴ、そしてカラスの綺麗な絵が描かれていた。
「…………」
手にとって、栞の裏を見た。
『常春の楽園《アヴァロン》の小さき偉大な王へと捧ぐ 湖の乙女』
「カァー!」
どこかでカラスの鳴き声がする。
「……帰ろっか」
栞をそのまま、己の名と同じ王の物語のページへ挟み、本を抱えて走った。
久しぶりに母の手作りのウェルシュケーキを食べようと思った。