ひと休み
「…………すぅ」
「クゥ……クゥ……」
うららかな午後のひと時、木陰で日差しを遮りながら微睡む二つの影へ、エアリスは柔らかな微笑みを向けていた。
澄んだ空の下、広大な世界を右往左往する日々が続いている。時には波に揺られながら水面を進み、チョコボやバギーで大地を駆け抜けることも。小さな頼まれごとから星を巡る大きな使命まで、数々の成すべきことを背負いながら続く旅は過酷な面もある。
そんな中、誰かが言ったわけではないがいつの間にか暗黙の了解となっていることがある。
『チョコボストップを見つけたら一時休憩!』
共和国時代に使用されていたという、チョコボ車を待つスポット。神羅が交通便を支配してしばらく、民間のチョコボ車など通りかかることもなければ手入れをするような人もおらず。雨風に晒されて屋根には穴が空き、複数あったと思しきベンチは人ひとりがようやく座れる程度にしか原型を留めていない。目印となるチョコボの風見鶏が回る看板も、無惨に地に伏せていることが多く、人々の記憶から忘れされて久しいことがありありと映る。
そんな閑古鳥が鳴くチョコボストップであるが、なぜかその近辺にははぐれチョコボが出没していた。そして近くを通りかかる一行へ、嬉しそうに駆け寄ってきてはチョコボストップへと案内するように走り回るのだ。
「可愛いけど、不思議だよね」
「クラウド……実はお仲間だったりして?」
「おい」
旅先で見かける度に、律儀に倒れた看板を立て直し風見鶏を回転するように建て付けを直していくクラウドへ、はぐれチョコボは親愛を寄せるようにその足元へ駆け寄ってくる姿はとても愛らしい。ツンツンとした羽毛がどこか似た雰囲気を醸し出すその姿を揶揄すると、クラウドは呆れた声を上げるが彼自身チョコボのことは好ましく感じているのは誰もが知っていた。
そんなことが理由──ではないが、チョコボストップでの休憩時、なんとか座れるベンチに腰掛けるのはクラウドが最優先となっている。彼はいつもその席を譲ろうとするのだが、戦闘時や移動中で先陣を切ることが多いクラウドは常に気を張っていることが多く、少しでも休んでもらうべく無理やりベンチに押し留めたのが最初の頃のやり取りで。今ではそんなやり取りをすることも諦めたのか、座り心地を少しでも良くしようとざぶとんを使用して足元にやってくるチョコボを撫でたり、一緒に目を閉じて休んでいる姿が恒例となった。
今日もそんな日ではあったのだが、いつも以上の姿をエアリスは見ていた。
「……ん…………」
「おやすみ、だね」
ベンチの下ではチョコボがぽてりと転がっており、仲良く寝息をたてていた。珍しい姿に少しばかり遠巻きに見てしまったが、日差しのあたたかさに加え頬を撫でる爽やかな風が木々の枝葉を揺らし奏でるのがちょうど眠気を誘う音色で。確かにこの場所に居たのなら一眠りくらいしてしまうだろう、とエアリスは納得を覚えた。
「おつかれ──だよね、うん」
世界は広く、敵は強大で、助けを求める声は数多だ。興味ないね、なんて格好つけていることもあるが、クラウドはなんだかんだ言って優しくお人好しだった。そっけない態度でいながらよく人を見ており、ふとした時にいつでも助けられるように気にかけてもらっている。戦闘中、敵の攻撃に体制を崩した際にクラウドが支えてくれた回数は数知れず。きっとエアリスが思っている以上にクラウドは皆を気にしている。
だから、こんな日は。
「……なんだか、わたしも眠くなってきちゃったな」
そっと忍び足でベンチへ近寄る。途中で気づかれてしまうかとも思っていたが、エアリスの予想を裏切ってクラウドは目覚める様子はなかった。以前、ナナキがこっそり教えてくれたがクラウドの眠りは案外深いらしい。そのことを思い出してエアリスは笑った。
「クゥ?」
「ごめんね。横、通ります」
代わりにチョコボが眠たげに瞼を上げたため、エアリスは小さな声で謝ると羽を踏んでしまわないように注意しながら更に奥へ進んだ。
このチョコボストップのベンチは比較的きれいなようで、二人がけのまま目立つ穴も空いていないようだった。クラウドはいつもの癖からか、片側に寄せて座っていた。
「失礼します……」
その横へ、エアリスはそっと腰を下ろす。ぎぃ、と小さく木が軋む音が響くも、吹き抜ける風に揺れた葉音で掻き消されてしまった。
「──────」
ふたり並んで、ベンチに腰掛ける。クラウドはまだ眠っていた。仲間たちは遠く、日はまだ高い。なんだか時間もゆっくり流れているような気がした。
「……少しだけ、だから」
気持ちの良い午後のひと休み。エアリスはそっと横のクラウドへ肩を寄せると、優しさに包まれるようなあたたかさを感じながら目を閉じた。