王様なグラハムと暗殺者な刹那
その国は機械仕掛けの神によって守護されているという。
争いを止める強大な力を持つ神は、機械故に意志がない。だからこそ、その意志を担う存在として王を選ぶ。
選ばれた王の意志によって、国の方向性は幾度も移りゆく。
あるときは神の力を存分に他国へ振るい、征服と強奪を繰り返し国を広げ。
あるときは神の力を一切頼らず、ただ抑止力として静かに存在を誇示するに留めた。
いつしか国民の意志は二つに分かたれた。力を積極的に振るう改革派と、現状を維持する保守派に。
両者の対立は激しく、前王は内乱による凶弾によって倒れた。
そして数日後。新たな王が選ばれたと、この国で唯一機械の神の声を聞き届ける巫女姫によって宣言された。
「ソラン、お前に重要な役目を任せる」
そう言って手渡されたのは、手のひらサイズのナイフ一本。
それはある意味死刑宣告だった。
ソランは少年兵だった。所属しているのは改革派だったか保守派だったか。それすらも曖昧な、ただ命令を聞いて実行するだけの使い捨ての駒。
誘拐されて、洗脳されて。気がつけば内戦の道具として、身の丈に合わない装備を持たされ戦場を走り回っていた。多くの同胞が死んでいく中、奇跡的にも生き残ってきたソランは大人たちに顔と名前を覚えられた。舞台は戦場から街中へ移り、一人でも多く殺すことから一人を確実に殺す方向へ変わった。
そして、今。
ソランは王宮にいた。
国の重要な式典が執り行われようとしている只中。慌ただしく人々が行き交うなかで息を潜め、ソランはその時を待っていた。
新たな王が国民に向けて、機械神をどのように行使するか宣言するその瞬間を。
改革派か保守派か。どちらでも関係なく、ただ殺すだけ。
ソランは特別賢くはないが馬鹿ではないため、この任務は恐らく失敗すると読んでいた。依頼してきたものたちも理解しているだろう。これはただの脅しだ。自分たちの意に沿わなければ痛い目にあうぞ、と新王に告げるためのデモンストレーション。
ソランはそのための生贄に選ばれただけにすぎない。
ファンファーレが鳴った。
そろそろ王宮のテラスから対象が顔を出す頃だろう。
決意も覚悟もせず、ただ言われた役割を全うするためソランは立ち上がった。
「あえて言おう――――
こう言い切った馬鹿おうは、後にも先にもアイツだけだろう。
ソランの襲撃をあっさりと躱し――後で聞いた話ではアイツは軍人だったらしい――あろうことか、民衆の前でソランにこう告げたのだ。
「私は神の愛を体現することを命じられた身。ならば! この少年の罪を不問とする!」
この宣言を聞いた瞬間、すべてが馬鹿らしくなって抵抗することすら忘れた。
こんな王が誕生したとなれば世も末、この国は勝手に滅ぶ運命だろう。そう思ってソランは思考することを放棄した。
「ところで少年、名は何と言う? 呼び名がないのは些か不便だ」
「…………」
「名乗りたくないのだな? では私が新たな名を与えよう!」
――――刹那、だ。
とても一国を預かる存在との会話とは思えないやり取りの末に、ソランは刹那となった。
「刹那、君の処分が決まったぞ」
「わかった。死刑か? 投獄か?」
「私の養子にすることにした! これで王宮にいても変ではないぞ!」
「………………頭痛が痛い」
言葉の使い方が間違っているぞ、と大きく喋るソイツの姿にさらに痛みが増してくる。
こんなやつを選んだ機械神とやらの面を拝んでみたいものだ。
「オマエ……その怪我でまだ行く気か!?」
「もちろんだとも。王に選ばれたとしても、私は軍人だ。この国を守るものとして、戦場から離れる訳にはいかない」
新王を認めないものたちが起こした暴動。それに誘発され内戦は深刻なものとなった。
改革派保守派に関わらず、目の前のものすべてに対して攻撃を続ける泥沼の様相。つい先日、どこかの一派から放たれた凶弾によって倒れたばかりだというのに、この男は戦場へ向かうと言って聞かない。
「死んだらどうするんだ! この国は――――」
「次の王なら心配ないさ。神はすぐに次を選ぶだろう」
この国は、そういう国だ。
それは紛うことなき事実であり、誰一人として反論できなかった。
「それに、私はただの代替にすぎないからな。早々にいなくなるのは神の望むところだろう」
いまなんと言ったか、この男は。
「おい、なにを……?」
「君にだけは話しておこう。刹那、私は……真に機械神に選ばれたわけではないのだよ」
『無事帰ってこれたなら、私の名前を呼んでくれ。いい加減、貴様とかお前では寂しいではないか!』
其処にあったのは人形を模した巨大な機械だった。
真っ白な全身にトリコロールカラーで色彩され、無骨ながらも鋭い輝きを放つ剣を携えた、人知を超えた存在。
「これが……ガンダム」
我を忘れて存在に目を奪われる。だが、こうしている時間はない。今なお戦場ではあの男が命を削りながら戦っているのだから。
「お願いだ、お前の力を貸してほしい」
王になりたいわけではない。神の権威が欲しいわけでもない。
刹那が求めるのは、戦争を根絶させるための力。
武力でも対話でも何でも良かった。早くこの醜い争いを終結させ、あの男との約束を絶対に果たさせてみせる。そのための力を求め、刹那はここにいた。
「応えてくれ――――ガンダム・エクシア!」
刹那の声に呼応するように、鎮座していた白き機体に緑光の輝きが灯った。