番外編 Duranta
あたしは、伝説の人形師『ティーテレス』の子孫として生まれた。
物心ついた時に人形――まだぬいぐるみだったけど――を作ってしまうほど、あたしは才能があったんだと思う。
ついでに言うなら、あたしの初恋はアデルだと思う。
物心つく前からずっとそばにいた彼に、特別な感情を抱くのはおかしなことではないと思うけど。
けど……それは、絶対にかなわないものだとわかってもいた。
「アデルはさぁ、ケッコンとかしないの? いいかげんいい年でしょ~」
冗談っぽく彼にそう言ったことがあった。確か15年ぐらい前だったかな。
いい年ってレベルじゃないことぐらいわかってたけれども。
多分この時は諦めきれてなかったんだ。
「しないさ。まずする相手がないだろ」
「そうかなぁ? 作ろうと思えばいくらでもできるでしょ」
気づかれないぐらい小さな声で「あたしとか、さ」と呟いてもみた。
けど……彼の答えは意外なほど残酷だった。
「ダメさ。……俺にはもう、人間の気持ちがわからない」
なんと言っているのか、しばらく理解できなかった。
大おばあ様は残酷な人だったんだと、心から思った。
アデルは『騎士』で、当時の人やティーテレスにとってはとても大事な人だった。
けど、彼をこうしてまで生かす必要があったの……?
「わからないよ……」
アデルが好き、それはきっと死ぬまで変わらない。
でも、あたしでは彼を救えない――人間だから。
人間だから、
そんな時、イー君と出会ったんだ。
僕があの人の弟になったのは、5歳の時。
当時のこの国は国王が亡くなったばかりで、とても揺らいでいました。
貴族であった僕の父はあるとき「『騎士』を味方につけよう」などと言い出し、息子の僕を餌として森へとはなった。
僕に贈られたのはただ一言。
「『騎士』の同情を得るのだ。そして我が家の後見となってもらうのだぞ」
幼かった僕にはすべてを理解できたわけではなかった。
けれど、何も出来なかった。
あと一歩あの人が僕を見つけるのが遅かったなら、僕は生きてはいなかっただろう。
「なまえ、ですか?」
「ああ。……前のは、呼ばれたくないんだろ?」
どうしても名乗ろうとはしない僕に、あの人は優しく言った。
「じゃあ……『
花から付けられた名前なんて――と思ったのも束の間で、そう呼ばれた瞬間からとても暖かく感じられた。
それが嬉しいということだと、しばらくしてから知った。
その後、何度も父から遣わされてきた者たちを、僕は拒み続けた。
隠しているつもりだったけれど、きっとあの人は知っていただろう。
知っていたからこそ――こう言ったと思っている。
「イラソル、俺のことを『兄』って呼んでみないか? 家族として」
「……!」
……結局、その日は泣きじゃくって呼ぶことはできなかったけど。
次の日から、僕はあの人の『弟』になったんだ。
そして――彼女と出会った。
「そろそろ婚約して1年かー。早かったねぇ」
「ええ、本当に」
「リムちゃんがアデルを救ってくれて良かったよ。……あたしたちじゃできなかったもんね」
「それも、彼女がティーテレスだったからですね」
「まぁ、あたしたち『アデルを幸せにし隊』の活動は続くぞぉ!」
「……いつからそんな名称になったんですか?」