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十五章 Columbine

「『騎士は王様に約束しました。私の身体が動き続ける限り、この国を守り続けましょう』……」
 この本のページも、残すところあと2ページほどです。
 私は、そうっと最後のページをめくりました。
「『それから、人形となった騎士は、いまなおこの国を守り続けているのです』――そう、なんですね」
 読み、終わってしまいました。
 なんだかとても長い時間読みふけっていたような気分ですが、実際は十数分といったところみたいです。
 ……何と言ったらいいのでしょうか。
 騎士様が、とっても――
「いまシたね」
「ふぇ? あ、ニンフェア。どうしたの?」
 ニンフェア、それにイオンが神妙な顔つきで後ろにいました。
 え? なにかあったの……?
「説明はあとデ。こっちデス」
「え、え? ちょっと……!」
 ま、まだ本返してないのに! 
 ずるずると引きずられるように、私たちは図書館を後にしました。




「いやー助かったよ、ニンフェア。あたしはあそこに入れないからさぁ」
「なんデ入れないんデスか?」
「ちょーっと前に、出入り禁止!! って怒られちゃったんだよ~」
 ……図書館で何をしたら出入り禁止になるんでしょう。
 ナナハさんのことだから昔のティーテレスの設計図でも覗きに行ったんでしょうか。
「ひどいよね。あたしはただ、あたしの家と図書館を繋げる地下通路掘ってただけなのに~」
「……よく、出入り禁止デ済みまシたね」
 ニンフェアに同意します。
 普通ならつかまって牢獄か、罰金ですよ!
「だって、そんなのあったら便利ジャン!」
「ソれ以前の問題かと」
「あれは大変でしたよ。……揉み消すのが」
 っ!? い、イラソルさん……いま小声でなんて言いました?

 こんなのんびりした会話をしている私たちですが、状況はすごいです。
 えっと……なんで軍人さんの馬車に乗せられてるんでしょう?
 運転してるのはもちろんイラソルさんです。
 そろそろ真面目な話をしてもいいですか?
「あ、そうだね。じゃあ、いまの状況を確認しまーす」
 なんだかすごいことになっているみたいですが……。
「まぁめんどくさいので一言でいうと……童話の再現中? みたいな?」
「それじゃ伝わりません」
 ナナハさんの言葉を一刀両断しちゃったイラソルさん。
 うん、でも確かにわからないです。
「えぇ!? これ以上ないぐらいの説明なのに?」
「ドこガデスか」
 ニンフェアまで言っちゃった。あ、イオンも頷いてるし。
「うううぅ。じゃあ、これでどうだ! 『人形の騎士』再来中なの! またどっかのバカな国が――ああもうっ!! とにかく、アデルがピンチなの!」
「何言って――え?」
 アデル様が!?
「最近、近隣のとある国を陛下が、まぁその……怒らせてしまいまして」
「で、その国が巨大兵器を近くの森に放っちゃったんだよ。だから――」
 アデル様が、向かわれたのですか……!?
「最初はティーテレスだけで何とかさせる気だったらしいんだけど、ことごとく失敗したからアデルを強制させたの」
 なんですか、それは。
 まるで『人形の騎士』そのものじゃないですか――!
「噂になってた『45世代以上のティーテレスを無差別に集めてる』ってのも、それ関係だったし! あーもうっ!!」
「ナナハサン……」
 先程までの雰囲気とは打って変わって、怒りをあらわにするナナハさん。
「みんな! 危ないと思うけど意地でもついてきてね! アデルを助けなきゃ、大ばーさまに叱られちゃう」
 ナナハさんの大おばあ様って、たしかお城にとんでもない仕掛けを付けた方ですよね。
 アデル様と関わりがあって、あんな仕掛けが作れて、ナナハさんの親族――もしかして。 
「ナナハさんの本名はナナハ・ティーテレス。つまりそういうことです」
 イラソルさん、ありがとうございます。やっぱりそうなんですか。

 そんなことを言っているうちに、馬車が止まりました。
 着いたんですね。
「行くよ! さっさと片付けてあの国王をブッ飛ばすっ!!」
「ナナハサン、目的ガ違いまス」
 アデル様――どうか御無事で!











「この道も、久しぶりだなぁ……」
 ひとり、森の中を歩く。
 最後にここに来たのはいつだったかなどと考えながら、鬱蒼とした森の中を進んでいく。
 手持ちは一振りの剣。
 そう――あの時と変わらない。
「あ、たしかあそこにティーテレスの家があったんだよな。……まだ辛うじて形が残ってるし」
 独り言を言いながらも、心は静かになっていく。
 もうすぐ、あの場所だ。
「何も、同じところにしなくてもいいのにな」
 歴史は繰り返すのだろうか。
 ふと、視界が開けた。
 暗い森の中で唯一、日の光が届く広場となっている場所――そこには似つかわしくない先客がいた。
「うわ、ここまで似せなくても……」
 黒く巨大な物体は、アデルに否が応でも“アレ”を連想させた。
 大きなため息をつくと、腰に差してあった剣を抜き取る。
 その瞬間、大切な者たちの顔が脳裏に浮かんだ。
「(わかってる。死なないさ……いや、死ねないんだったか)」
 苦笑し、そして――まっすぐ“  ”へと向かっていった。

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