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七章 Salvia

「こ、婚約者……ですか!?」
「うんそうー! あり、言ってなかったっけ?」
 先程のナナハさんの行動(アデル様曰く、暴走)の理由を教えてもらったのですが。
 なんと、ナナハさんとイラソルさんは、婚約関係にあるらしいです。
「ついでに付け加えるなら、イラソルは俺の弟だよ。……お帰り」
「ただいま帰りましたよ、兄さん」
 またまたびっくりしました。
 確かにここで暮らしている、とは聞いていましたが、アデル様のご兄弟だったんですね。
 でも、ほとんど共通点がないように見えますが……。
「イラソルサん、お帰りなサいデス」
 驚きもせず(当たり前だけど)、そう告げたのはニンフェア。
 すぐ後ろでは、イオンが何度も首を縦に振っている。
「ただいま帰りました、ニンフェア。それにイオンも」
「イー君、もっと柔らかくいこー?」
 そう言いながらも、イラソルさんに抱き着いてるナナハさん。
 顔はいつも以上に嬉しそう。
「離れてください。休みは今日一日だけなんですから――」
「だったらもっとくっ付く!!」
「忙しいのか?」
 やっぱり軍人さんは忙しいみたい。
 とりあえず、私にできること――うん、荷物を運ぼうかな。
「……気持ちはありがたいですが、自分で運びますよ」
「えっあ……ごめんなさい!」
 わ、私余計なことしちゃった!?
「いえ、気にすることありません。あなたに任せると、兄さんがうるさいですからね」
「そ、そんなことないぞ!?」
 えっと……どうすればいいんだろう――?





「イラソルサんは、15歳から士官学校に行ってまス」
「すごいんだね……」
 積もる話もあるだろうから、私たちティーテレス組は夕食の準備に取り掛かってます。
 ちょうどいいので、イラソルさんの話も聞かせてもらってるの。
 士官学校っていうのは、お城の近くにある、軍人さんになるための学校。
 まずその学校に入るのが大変なんだとか。
「スゴくいい成績デ、今年19歳デスガ、もう小部隊の隊長になったソうデスヨ」
「隊長!?」
 あんまり軍のことはわからないけど、隊長って一番えらい人だよね?
 本当にすごい人なんだな……。
 そういえば――
「イラソルさんが19歳なら、アデル様は?」
 今まで気にはなってたけど、聞けなかったことをついでに聞いてみた。
「……ヒミツデス」
 あう、またはぐらかされた。
 私って、そんなに信用ないのかなぁ。
「ソのうち、アデル様から説明シてくれまスよ」
「……わかった」
 仕方がない、それまで待ってようっと。


 夕食は、アデル様に頼まれた通りカレーです。
 みんなで同時に「いただきます」って言うと、なんだか普通よりおいしい気がする。
 普通の家庭だったら、こんなこと絶対にできないし、感じないと思う。
「ねー、そろそろ婚約から進まない? アタシさみしぃ~」
「あと3年待ってください。せめて大部隊隊長クラスにならなければ、上がうるさいですし」
 あらためて思うけど、ナナハさんとイラソルさんって正反対だよね。
 だからこそ仲がいいのかな?
 うーん……恋愛って難しい。
「ごちそうさまでした」
 あ、アデル様が食べ終わった。
 食後のコーヒーを用意しなきゃ!
「リム! イラソルの分も頼むぞ」
「ブラックでお願いします」
「わかりましたー!」
 えっと、アデル様がミルク入りで、ナナハさんが……一応、カフェオレ。
 あんなに砂糖とミルク入れたら、甘すぎると思うんだけどなぁ。
 っと、そんなこと考える間に、準備しなきゃ。
 今日はおいしく淹れられるかな?










「イラソル、城はどうだ?」
 プリムラたちが、夕食の準備をしている頃。
 3人はアデルの部屋に集まっていた。
 先程とは違い、真面目な顔つきで。
「今のところは静かです。不気味なほどに」
「あの噂……本当なの?」
 そう呟くナナハの顔は、蒼白。
 わずかに震える手を、そっとイラソルが握る。
「僕のほうには、なにも。もう少し地位があれば、わかったと思うのですが……」
 すみません、と謝るイラソルを、アデルは止めた。
「お前が悪いわけじゃないだろ」
 そっと、アデルは部屋の壁に目をやる。
 そこには、質素な部屋にはある意味異質に見える、豪奢な剣が掛けられていた。

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