序章 Lycoris
むかしむかし、あるところに小さな王国がありました。
その王国は人形を作るのがとても上手で、国民はみな人形を作ってくらしていました。
しかしあるとき、王国のすぐそばの森に、こわいこわいまものがあらわれました。
まものはおおきなからだで、たくさん人を食べてしまいました。
王様は言いました
「人形たちをまものにさしあげよう! そうすればわたしたちは食べられずにすむ」
しかしひとりのきしが反対しました。
「王様、やめてください。人形たちも生きているのです。こわいと、死にたくないとさけんでおります」
王様は怒りました。
人形がしゃべるはずありません。
それに、人形は生きていません。
動いているのです。
けど、あまりにもきしが言うので、王様はこう言いました。
「ならば、お前があのまものをたおしてみせよ!」
きしはうなづきました。
「この王家につたわる、つるぎをもっていけ」
きしはそのつるぎをうけとると、まっすぐまものにむかっていきました。
おおくの人が、きしをとめました。
きしはだれにでもやさしく、みんながだいすきなひとでした。
しかしきしは言いました。
「わたしがあのまものをたおせば、みんなにまたえがおがもどってくる。人形たちもたすけられる。だからこそ、わたしは行かなくてはならない」
きしは、人も人形もすきでした。
どちらかをえらぶことができなかったのです。
だからみんなをたすけるために、きしは行ってしまいました。
1日がたちました。
3日がたちました。
5日がたちました。
きしはかえってきません。
7日目の夜、だれもがあきらめていたとき、きせきがおこりました。
きずだらけになりながらも、きしは帰ってきたのです!
多くの人は泣きながら言いました。
「おかえりなさい」と。
きしもいいました。
「ただいま」と。
童話『人形の騎士』より