若竹庵


「しまったぁ……地図わすれた」
 情けない声をあげながら、私は見ず知らずの土地を彷徨っていた。
 都市部から少し離れたこのあたりは昔ながらの町並みが少し残っていて、見てるだけで楽しかったのだが、これが災いして絶賛迷子。土地勘もないのに無駄にウロウロしてしまったツケだろうな……。
「仕方ない。気は進まないけど聞いてみるか」
 正直、見ず知らずの人に話しかけるのは苦手だけど四の五の言ってる余裕はない。もし帰れなくなってしまった場合の宿代など持ってるはずもない。貧乏学生は辛い。
「あの、大丈夫ですか?」
「…………は、い?」
 後ろからの声に振り向く。
 男性だろうか? いや女性かもしれない。声も見た目も中性的で、どちらともとれる人が、心配そうにこちらも見ていた。
「どこに行きたいんですか? このあたりのことならわかりますよ」
「本当ですかっ!」
 助かった、と感激の悲鳴を上げてしまう。まさに九死に一生だ。
「あの! このあたりに『本ソムリエ』さんがいらっしゃると聞いたんですけど」
 本ソムリエ――たぶん普通の人なら知らない言葉だろう。私もついこの前インターネットで見つけたばかりだ。
 昔から本を読むのは好きでも、すぐに話に飽きてしまって読み終われなかった。話題のベストセラーや純文学、児童文学なども肌に合わず、投げ出してしまった。
 一人ひとりにあった本を選んだり、アドバイスをくれるという本ソムリエ。私にも合う本がきっとあって、ソムリエさんならわかってくれると信じ、家から結構離れたこの街へやってきたのだ。
「あー……それ、僕です」
「そうなんですね――――って、ええっ!?」
「まいったなぁ。そう名乗るのは親しい人にだけなんですが」
 困った笑みを浮かべる彼に、私は焦る。
「ご、ごめんなさい! なんの約束もせず勝手に来ちゃって」
 絶対嫌われた。さっき言ったことは無しにしてもらって、帰り道だけでも教えてもらおう。そうしよう。
 そう言おうと口を開きかけ。
「まぁ、こんなところまで来てもらってなんだし……いいですよ、特別に」
 彼が――何歳かわからないけど、すごく若い――微笑みを浮かべながら切り出した。
「僕の書斎『若竹庵』へどうぞ。あなたに合う本を必ず見つけてみせますよ」
「ええぇええーっ!!」
 何度目かの悲鳴が先に飛び出て、前の言葉はなかったことになった。
小さんへ。背景はお気になさらず!
ボイドラかソムリエか。どっちをメインにするか少し悩みましたが、ここはソムリエにしました。
ぶっちゃけ声の描写がくそ難しかったんですハイ! スミマセンでした!