空想 i


 僕の恋人は“空”です、って言ったら信じる人はいるだろうか。
 もちろん人の名前というわけではない。毎日、意識せずとも視界に入る、頭上で無限に広がる青い空のことだ。

「おはよう」
 朝起きたらまず部屋の窓を開け、挨拶をする。
 季節によってはすぐに『おはよう』と返してくれるのだが、いまの時期はまだ眠ってることも多い。
 今日は……すこし曇り空。ちょっと機嫌が悪いのかもしれない。
「もしかして、昨日のこと怒ってるの?」
 そう問いかけても返事はない。代わりに太陽の眩しい日差しが一直線に飛び込んできた。
 君は恥ずかしがり屋だから、ちょっとでも照れくさいとすぐこんなことをする。慣れたからいいけど、少し間違えたら失明してしまうかもしれないんだから、なるべく控えて欲しいのだけど。
『――――もう、当たり前じゃない!』
 やっと返事がきたのは、ちょうど学校に着く寸前だった。
『どうして君がひどいことされなくちゃいけないの? 君は悪くないもん』
「ははっ。そう言ってくれるだけで十分だよ」
 可愛らしく頬を膨らませる彼女の姿が目に浮かぶ。思わずクスリと笑うと、さらに彼女は拗ねてしまう。
『……どうして、他の人に“私”のこと言っちゃうの? そのせいで――』
 彼女はどうやら、昨日のことを随分気にしているようだ。
 無理もないかもしれない。いつもならなるべく室内で済ませてきたことを、昨日は運悪く、校門のところで捕まってしまった。だから彼女も見てしまったのだろう。
「でもさ『彼女いません』って嘘つくのはどうかと思うんだよ。嘘をつかない正直者になりなさい、って大人は言うし」
 中学生にもなるとある程度グループというものが形成される。僕は特定のグループには属しておらず、一匹狼といったらカッコいいのだけれど、そんな大したものじゃない。ただあぶれてしまった余り物だ。
 そんな僕は強者に捕食される弱者。同級生とは思えない顔つきの人たちに目をつけられている。そして理不尽な行為に付き合わされているのだ。
 昨日のそれも、その一つ。ただ違ったのは、相手が自信満々に「お前なんて付き合ったことないだろ!」と言ったことを真顔で否定したのだ。相手グループはみな面食らって、散々馬鹿にしてきたけれど、僕は一切嘘をつかなかった。

「僕にはとても素敵な彼女がいるよ。ビルよりも高く、海よりも広い、宝石よりも綺麗な――“空”というひとが」

 何度だって自信を持って言える。
 自分という存在に悩み、生命に疑問を抱き、世界に絶望しかけた僕を、雄大な心で包み込んでくれた君が大好きだ、と。
朱音さんへ。読み方を自由に受け取ってもらう、というのがすごく素敵だと思ってました!
なので二通りの考え方ができるような話を――と頑張ったんですが、イマイチ納得がいってないです。
うー、申し訳ないっ! もっと精進します!