とある魔術師のはなし


 昔の話だ。
 ある辺境の地に魔術師を名乗る人物がいた。
 男か女か、それは伝わっていない。ただ、どちらともとれる容姿をしており、どちらにせよ、美を絶賛されるほどのものだったらしい。
 魔術師は、他人との接触を極力避け、ただひたすらとある魔術の研究に勤しんでいた。
 それは別に特別なことではない。魔術師とはそういう生き物である。
 その目的も……言ってしまえば、なんら珍しいものではない。
 誰もが一度は抱くであろう、生命として避けては通れぬ世界の理に対する叛逆。

 ――――死にたくない――――

 単純にして明確。
 かの者が魔術を極めようとしている衝動は、そんなありきたりな願望だった。

 当時はどこもかしこも不安定で、死は常に身近であり、次は我が身だと死神が語りかけくるような幻覚を見てしまうほどだったという。
 そんな時代に生まれ生きた魔術師が『生』に執着するのは、当然といえば当然。
 ただの凡人に生まれていたのならば潔く諦められたのかもしれない。
 だが、かの者は魔術を扱う力を持って生まれてしまった。『異形』なる存在を視ることができてしまった。

 死にたくない。死にたくない――――!

 あんなバケモノに、なりたくない――――!

 何年、何十年も研究は続けられた。
 魔術師が目指したのは、神話に語られるとある秘術。
 他者に自身の魂を憑依させたり、自らの肉体と魂を分離させ透視を行ったり、過去の霊を呼び寄せたりすることができたという。
 魔道書には『魂を自在に操る』魔術と記されていたそれを、魔術師はさらに一段階昇華させ、自らの魂を永遠の存在へ召し上げる術にしようとした。

 そして、魔術師の肉体が限界をむかえる寸前、その魔術は完成した。
 魔術師の歓喜の声は、隣り村の外れまで響き渡っという。

 腐りかけた足を動かして円陣を踊り描く。嗄れた喉で神代の呪歌を詠唱する。
 魔術師の周囲を魔的な力が集ってゆく。

 ――――あと少し。あと少しで、吾は死なない存在へ生まれ変わる――!

 儀式の最後。
 あと一歩のところで、魔術師は躊躇した。
 失敗したわけではない。なにも間違ってはいない。あと一回、腕を振るえばそれで全て上手くいく。
 だが――――

「…………あぁ」

 永遠なる魂に生まれ変わるには、いま魂をつなぎとめている肉体を捨てなければいけない。

「なんと、恐ろしいことだ」

 それは即ち。

「死を恐れ、死を拒み続けたこの身を――――」

 その手で断ち切らなければならないということ。

「……吾は、愚かなり」

 単純にして明確。
 それだからこそ、魔術師は見て見ぬふりをし続けてきた。

「結局、吾は人であり、人であるが故に……死からは逃れられぬということか」

 魔術師は笑みを浮かべた。
 瞳からは透明な雫が滴り落ちてゆく。それでもなお、魔術師はやわらく微笑んだ。
 ――――それは、魔術師が生まれて初めて浮かべた笑顔だったのかもしれない。

「良いだろう。吾は……決して、死に屈したりはせんぞ! これは死ではない。新たなる誕生の瞬間である!」

 魔術師は高々に宣言すると、自身に躊躇わせる隙も与えぬよう、手に持っていたナイフで引鉄を一気に引いた。



 それから数百年の時が過ぎた。

「ねぇ、知ってる? 友達の友達から聞いた話なんだけど」
「ある若い人、たぶん私たちと同じぐらいの年。――がね、自殺したらしいんだけど」
「次の日、ケロッとした顔で学校に来ててさ。人が変わったみたいに『生きたいです』って言い出したんだって」
「もう数ヶ月前から自殺したいーって言ってて、遺書とかも持ってたような人がだよ?」
「ホントに別人なんじゃないかって言われてたけど、知り合いとかが昔の話振ってもちゃんと返事するの。しかも間違ってない」
「更生したんだなーって思うじゃん? 実際、親とかは思ったらしいんだけど」
「でも不思議がってた知り合いの一人が調べてみると、すっごいことがわかったの」
「別の全く関係ない人がね、その自殺した人と全く同じ状況だったの。自殺して助かって、更生までしてた。……しかも一人だけじゃない。結構な人数がいたって」
「その自殺した人――あ、最初の人ね――が自殺した日ね、最後に更生した人の就職決まった日と一緒だったらしいの。偶然にしてはおかしいよね?」

「だからね、みんな魔法にでもかけられたんじゃないかって。生命を大切にしなさいっていう魔法に」

こんなんフリーにしてどうすんじゃあああ!! と突っ込まれそうな代物その2(笑)
誰のことだかわかりますよね。どっかの作品で偉ぶってるカフェイン中毒者です。
本編でやるべきなんだろうなぁと思いつつ『こんな設定だし皆さんとコラボしやすいんじゃね!?』という欲望に負けました。
その……あまり気にせずに。使ってやんよ、という心のひろーい方がいらっしゃったら嬉しいなぁ程度ですので。

よくよく考えたら『自殺しましたキャラ』なんていませんよね普通は!!(泣笑)