アステリズム


 あの日見た星空を、僕は一生忘れることはできないだろう。

「ねぇ、早くいこーよ!」
「バレたら怒られるじゃん……やだなぁもう」

 テンションの高い彼女に手を引かれ、僕は嫌々ながら人工的に整備されつくされた道のりを歩いた。
 ちらりと頭上を見上げれば、広がっているのは無機質なドームの屋根。
 僕らは『空』を知らない。
 生まれた時にはこのシェルターの中にいて、ここで当然のように暮らしてきた。
 緑はある。計画的に植木された小規模な森林や、金持ちの道楽で造られた見事な庭園を覗き見たこともある。
 水も多くはないけれど、貯蓄された池や、サンプルとして保存されている海水を舐めたことだってある。

 けれど、僕らの頭上にあるという『空』だけは見たことがなかった。
 遠い昔に撮られたという写真なら教科書に印刷されていたが、肉眼では一度たりともない。
 そしてその『空』に興味津々の彼女は、ありとあらゆる手段を用いて、この閉鎖されたシェルターの中で唯一『空』を望める場所を見つけたというのだ。
 正直、嘘くさい。
 だいだい、空なんて別に禁忌でもなんでもない。『見るほどの価値もない』という烙印が押されたからこそ、ここを造った人間は頭上を覆い隠したのだと習った。
 そんな取るになたらないものを、なぜ彼女は心惹かれているのだろうか。
 僕には理解できそうもない。

「ほら、もうちょっと! もう見えてくるはず!」
「ああもう、わかったから。ちょっと速すぎ」
 息が切れる。こんなに走ったのはいつぶりだろうか。
 運動神経抜群な君と違って、僕はスタミナないんだからもうちょっと考えてくれてもいいじゃないか。
「ダメ! 急がないと消えちゃうじゃん!」
「は……?」
 消える? 空が? なんのことだかさっぱりだ。
 僕の疑問に答えることなく、彼女は一足先に走っていってしまった。
 全く、何を考えているんだか。
 呆れの苦笑を浮かべながら僕も、彼女の後を追って小さなドームの中へ足を踏み入れた。


 ――――そこには、数多の世界があった。

 赤、青、緑、黄……様々な色に輝きを放つ、ちっぽけな点に過ぎないものが、無限と思えるほど集まって、ひとつひとつ全く違う世界(モノガタリ)を織り成していた。
「ね? すごいでしょ!?」
 そう興奮しながら言った彼女の言葉も耳に入らないほど、僕はその『空』に心を奪われてしまった。
ツユリハさんへ。アステリズム=星座なのに、星座ではなく星空になってしまいました……。
もっと精進せねばいけません!
こんなものでよかったら貰っていただけると嬉しいです。